災害時につないだ、いのちの道 ネパール国ナグドゥンガトンネル

災害に強い道路トンネル、開通後の通行時間は大幅に短縮

ネパールは、北側に中国、南側はインドと両大国の間に位置しています。国土の80%がヒマラヤ造山帯で形成される山岳地形からなり、険しい山々に囲まれる首都カトマンズと他の主要都市との人・物の流れは限られています。このため主要な産業が発達しにくく、山々を活かした農林業・観光業が経済の柱となっています。ネパールにおいて、円滑な交通・物流と経済の発展に寄与する災害に強い安全な道路整備の需要は極めて高い一方で、限られた財源、厳しい地形条件から道路網の整備は進まず、その整備方法も限られてきました。
日本工営はネパールの山岳地形を利用した水資源開発・水力発電からはじまり、送・配電網整備、農業・灌漑開発、シンズリ道路をはじめとした運輸交通セクター等々幅広い分野で多くの事業を通して、ネパールの開発に貢献してきました。インドに通じる幹線道路は国の存亡に係る生命線であり、カトマンズの東側からインドへ通じるルートは、シンズリ道路が本邦無償資金協力により整備されました(当社は1986年~2015年までコンサルタントとして継続的に関与※1)。これに対して、古くからインドに通じる西側ルート・トリブヴァンハイウェイには急勾配・ヘアピンカーブ・頻発する斜面崩落と脆弱な舗装状況が重なり、数々の交通の難所があります。本記事で取り上げるナグドゥンガトンネルはその難所の一つであるナグドゥンガ峠に建設中の道路トンネルです。本道路トンネルの建設により災害に強い道路としての役割が期待され、通常の通行時間は約30分、渋滞状況によっては1時間以上かかっていたところ、本道路トンネルの開通により6~7分に改善される見込みです。また、トンネルは土砂崩れや地震にも強いことから、安全性の高い構造物といわれています。本トンネルの開通によって、周辺住民の利便性と安全性を高めることが可能となります。

既存トリブヴァンハイウェイの状況
トンネル位置図

トンネルを末永く運営・維持管理するための支援

日本工営JV※2は、2017年3月から円借款事業・ナグドゥンガトンネル建設事業に係る詳細設計・入札支援・施工監理・運営維持管理(Operation&Maintenance: O&M)能力強化のコンサルティングサービスを実施しています。トンネルは2車線対面通行の延長2,688mで、緊急時の避難坑(小さな断面のトンネル)が並行しています。トンネルは地山(トンネルを掘る岩や土のこと)の硬さ、掘る場所によって掘り方を変える必要があり、きわめて高度で複合的な技術や、経験が必要です。日本はトンネル大国として高いトンネル技術を有しており、ネパールの複雑な地形・地質状況を鑑みて、高度な日本の設計基準を参照して計画・設計しました。2024年12月現在は施工監理およびO&M能力強化を実施しています。
工事の進捗は、2023年8月に避難坑の貫通、2024年4月に本坑が貫通、2024年11月には覆工コンクリートの施工が完了しました。トンネル内の残工事はコンクリート舗装と設備設置となり、2025年10月の工事竣工および一般共用開始を予定しています。
ナグドゥンガトンネルは非常用設備や換気設備などを備える同国初の本格道路トンネルとして建設中ですが、ネパール政府ではこれまで道路トンネルのO&M経験がありませんでした。日本の円借款スキームの中でネパール政府のO&M能力強化業務を実施し、長く将来にわたりトンネル施設を適切に運営・維持管理していく体制の構築やO&Mのノウハウに係る支援もコンサルタントのサービスに求められています。

西側坑口の工事状況
本坑貫通式の写真

いのちの道として非常時に機能

ネパールは例年7~9月の降雨量が多いことで知られ、土砂災害も頻発しています。2024年も非常に雨の多い年となり、毎週のように多くの被害が報告されていました。中でも10月初旬には季節風の影響もあり、約2日間にわたる集中豪雨が発生しました。現場周辺でもあちこちで斜面崩壊による土砂災害があり、バスが埋もれて多くの犠牲者が出るなど痛ましい状況でした。本トンネル以西の既存道も寸断され、カトマンズに入る多くの車両が足止めされ、緊急車両の通行も妨げられる状況でした。

バグマティ川氾濫の様子
緊急車両通行状況

現地警察の要請を受けて日本側およびネパール政府道路局が協力し、貫通はしているがまだ舗装が完了していないナグドゥンガトンネルを、臨時のバスや救急車両を通すために緊急的に運用し、4000人以上の住民などの救援に繋げることに貢献しました。この様子は国内の多数メディア※3 でも報道されました。

VOICE

本業務は、詳細設計・入札支援・施工監理・O&M能力強化のどの段階でも、ネパール初の道路トンネルとしてチャレンジングな業務です。
施工監理においては、ヒマラヤ山脈形成時の地圧が大きく作用し褶曲しているトンネル掘削面が観察され、非常に大きな変形を伴う掘削が続きました。道路橋梁整備部の田中重明所長がJV協力会社の専門家と現地技術者約30名を率い、チーム全員で苦労して現場施工監理にあたっていました。
O&M能力強化においても、安全にトンネルの交通運用を行うために、O&M委託者の調達支援、マニュアル作成および現地関係機関との調整を鋭意実施中です。
工事竣工まであと1年弱。日本の援助として安全・安心な道路トンネル開通となるように、現場施工監理事務所とO&M能力強化チームで力を合わせて業務遂行していきます。

日本工営 ナグドゥンガトンネル建設計画開発事務所所長 田中重明
 O&M能力強化リーダー 倉持卓弥

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