自動設計システムによる斜面防災の高度化・省力化・迅速化

INTRODUCTION

インフラの設計業務に大きな変革期が訪れています。令和5年度から国土交通省ではBIM/CIMでのモデル作成が標準化。計画、調査、設計、施工、維持管理など、すべての現場でBIM/CIMの導入と活用がすでに進行中です。これらの全工程において関係者間の情報共有を容易にし、質が高い生産と管理を行えることが大きなメリット。一方で、BIM/CIMの導入と活用には、手作業の限界、スキルやハードのマネジメントの難しさ、ヒューマンエラーの増加、膨大な作業コストの発生などの課題が存在します。これらの課題を解決し、BIM/CIMを一般的なものにしていくために、日本工営では地すべり・斜面対策工設計の自動設計システムの開発を進めてきました。

PROFILE

  • 日本工営株式会社 国土保全部 国土保全設計推進室

    畠田 和弘(はただ ひろかず)

    1991年入社。防災部に配属。設計支援システムの開発を切り口に、諸課題に取り組む。斜面防災のBIM/CIMのパイオニアとして様々な計画を立案してきた経験を活かし、2020年より、斜面防災の自動設計のプロジェクトに従事。現在は、国土保全設計推進室により、社内BIM/CIM体制を構築してきた経験を活かすべく、全国のBIM/CIM案件の指導やBIM/CIM技術者の育成をしている。

  • 日本工営株式会社 国土保全部 国土保全設計推進室 室長

    山下 孝之(やました たかゆき)

    1991年入社。第三土木部に配属し、東京電力関連の設計を担当。1995年に北陸事務所に移動となり、地すべりを含む土砂災害に関する詳細設計を担当。その後も土砂災害や道路施設といった詳細設計の道を進み、設計のエキスパートとして様々な設計業務に携わってきた。2020年より、斜面防災の自動設計のプロジェクトに従事。現在は、国土保全設計推進室においてこれまでの経験を活かし、大型案件、特殊案件に日々向かっている。

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 中央研究所 CIM推進センター

    山口 裕二(やまぐち ゆうじ)

    2019年入社。仙台支店国土保全部に配属。大規模地すべりのBIM/CIM案件を切り口に、斜面防災分野の様々な新技術展開に取り組む。BIM/CIMやDXのインフルエンサーとして技術展開してきた経験を活かし、2020年より、斜面防災の自動設計のプロジェクトに従事。現在は、CIM推進センターにより、業界の技術革新を目標に、新技術開発・展開を担当している。

  • 部署名および役職・インタビュー内容は取材当時のものです

STORY

2次元設計で培ったノウハウと、3次元の可能性を融合した自動設計システム

―日本工営が開発している地すべり・斜面対策工設計の自動設計システムは、モデル作成から概算工事費の算出まで、自動処理によりワンストップで行えるものです。現在、次のステップである詳細設計精度の図面・数量計算書を開発中。必要な素材は、設計のロードマップと数値の整理のみ。技術者ではない人材でも3次元モデルの作成が可能です。このシステムを開発した経緯や特徴について、開発業務に携わった畠田、山下、山口の3名に聞きました。

畠田
国がBIM/CIMの活用を力強く推進してきたことが、何よりもの原動力です。これまでにも様々な施策が取られてきましたが、特に令和5年度から始まるBIM/CIMモデル作成の原則適用は、この流れを決定的なものにしました。弊社の多くの部署が携わっているインフラ業務も、ほぼすべてにおいてBIM/CIMが一般化していく流れになっています。
山口
私と畠田は、所属する日本地滑り学会BIM/CIMネットワークでオーガナイザーを務めています。土木学会でも地すべり・斜面対策工設計をBIM/CIMで高度化させようという力強い動きがあります。
畠田
国、自治体、学会、建設コンサルタントや施工会社など、あらゆる関係者が集ってみんなでモデル作成のレベルアップを行なっています。まさにオールジャパンという陣容です。
山口
弊社に限らずBIM/CIMの導入と活用には、どうしてもコストがかかってしまいます。しかし、そのコストの発生要因を整理してみると、プログラムの自動化により圧縮できる要素が多いことが分かりました。そこで、弊社では、パラメトリックモデルの作成、設計条件や設計思想のプログラム化、概算工事費用の算出など数値で処理できる工程という3つのプログラム群を自由に組み合わせられる汎用性が高いシステムを開発しました。
山下
BIM/CIMモデルの作成手法ですが、プログラミングによるモデル作成手法を用いています。これまで技術者が試算しながら設計していた作業を、全部プログラム化しました。パラメトリックモデルを用いて数値を入れていけば、構造物をどんどん作ることができます。加えて設計条件や設計思想を反映し、数量や概算工賃の算出まで行えるワンストップのシステムを開発してきました。寸法値だけを用いた3次元モデルを作成するのではなく、地形や地質の3次元モデルが先にあり、そこに構造物の3次元モデルを合わせて作成していくのが弊社の自動設計システムの使用イメージです。完成イメージを共有できる高度化と、概算で4分の1にまで作業時間を圧縮する省力化は現段階ですでに実現しています。
ビジュアルプログラミング
視覚的なグラフィカルユーザインターフェイスを使用して、プログラムの指示や関係を定義する方法
グラフィックスまたはグラフィックスとテキストを組合せて手順を記述できる

伸び代が大きく、若い世代が新しい領域を技術力で切り拓けるジャンル

―世代や専門技術が異なる技術者が集結して開発している日本工営の自動設計システム。山口は開発の途中で強く感じたことがあると話します。また、畠田は未来への可能性を、山下はオールジャパンで取り組む意義を話してくれました。地すべり・斜面対策工設計のBIM/CIMおよび、自動設計システムに携わるやりがいや今後の展望について聞きました。

山口
何よりも伸び代がまだまだたくさんある領域ということに惹かれています。私はメンバーの中で年齢が低い方なので若手と呼ばれますが、未来の可能性を考えると古参の世代に含まれるのではないかと考えています。例えば、動画やバーチャル空間などデジタルネイティブのZ世代の人たちこそ、3次元モデルや自動設計システムとの親和性が高いのではないでしょうか。土木というジャンルは不人気で高齢化が進んでいると言われますが、私は自動設計システムの開発に携わる中で、こんなにも可能性を秘めたジャンルなのかと驚き、若い世代が能力を発揮できる場所になると確信しています。
畠田
確かにインターンで来る若い世代には驚かされます。CADは当たり前のように使っていますし、地質モデルを作ってみようと誘うと3日程度で作ってしまいました。3次元ということにまったく抵抗がなく、むしろ当然と思っています。需要としても、弊社だけではなく、国や各企業がDXの予算を組んでいることも大きな時代の流れです。能力やモチベーションを活かせる環境が整っているので、産業としても盛り上がっていきますし、能力やモチベーションを活かしやすいジャンルになりつつあります。
山下
多くの関係者が「地すべり・斜面対策工設計のBIM/CIMの標準化」というひとつの目標に向かってオールジャパン体制で取り組んでいます。すでに業務で使うことは当たり前になっている中で、地滑りや土砂災害は弊社が従来から得意とする分野。先例をどんどん作り、ノウハウを入れ込んでいく役割だと自覚しています。災害は日本や世界中の至るところで起こります。ですから、日本工営だけのシステムでは汎用性がありません。日本の技術力を結集したシステムを作ることが第一の目標で、その達成ために弊社の経験が多分に活かされる分野だと考えています。
山口
日本工営は総合コンサルタントでインフラ関係に強く長い歴史もあります。他部署から幅広くBIM/CIMの情報を得られることは、大きなアドバンテージですね。この環境の中で最先端の技術開発に打ち込めることは、大きなやりがいになっています。

BIM/CIMの更なる標準化から人々の「豊かな暮らし」を実現する

―BIM/CIM標準化の流れは、大きなうねりとなり、日本の技術力を一気に底上げする可能性を秘めています。近年の技術革新の大きな特徴は、自社だけの利益追求ではなく、協働により進めていくプロジェクトが増えたこと。地すべり・斜面対策工設計のBIM/CIMもオールジャパン体制で取り組んでいますが、各人が思い描く「これからの技術と未来」はどのようなものになっていくのでしょうか。

山下
以前は、技術者から「こういう専用技術の開発が必要だ」という発信が必要でした。しかし現在は、DXや自動設計システムなどのように、大きな概念や技術が先に存在していて、それをどのように専門分野に落とし込んでいくかという流れになっています。目指すのは、高度化や効率化、働き方改革などですから、社内の他部署、他社、学会、国などとの連携も大切になってきます。実際に様々な場で体験してきたのは、立場の違いは関係なく、ひとつのテーブルを囲んで真摯に話し合うこと。特に土木分野は、世の中の新しい技術をまだまだ取り込めていません。医学のような分野を見ると、特にそう感じます。業界としての魅力を高めて基盤を整えるためにも、自動設計システムの開発はとても有意義なものだと考えています。
畠田
「地域住民の命のために」という根本的な目標を達成することが、私たちの使命です。これは国も関係各社も同じ思いだからこそ、参加する誰もが3次元ベースで打ち合わせをして、どんどん仕事を進めていこうとしています。令和5年度から原則適用になったBIM/CIMですが、これは一般的な工事に関するもの。実は災害直後の応急工事などにはまだ適応していません。しかし、私は特に地滑りに関しては使うことになっていくと予測をしています。UAV(ドローン)による点群データ取得は、地滑り災害になくてはならないものになっているので、そこから先に自動設計システムがあると効果と効率がまったく違うものになるからです。
山口
確かに災害後の初動がまったく違ってきます。業務で何度も経験していますが、災害が起こってから動き始めるまでの間に、膨大な量の資料づくりと照査を行なっています。この工程で省力化とスピードアップを実現できれば、現場調査にかなり早い段階から入れます。ルールですから、資料と照査そのものは必要不可欠なもの。しかし、最新技術によりミスが少なくスピーディーに課題解決できれば、多くの人の暮らしを守ることにつながります。
山下
2次元で完成された領域だったところに3次元が現れて、まさに「すごい!」という状況ではあるのですが、技術者としては「すべてが見えてしまう」「すべてを見せなければならない」ということが難しいです。例えば、地下水の状態や地質など、見えないところをどう見せるのか。構造物は寸法が決まっていますが、地下水は目に見えない上に不定形なものです。それをいかに可視化するのかが次に見えてきた課題。また、土中の環境のすべてを網羅すると表示項目が多すぎて、一見して何かわからないデータになってしまいます。表示項目の精査をしなければなりませんが、ここで必要になるのは、引き出しの多さ、つまり知識と経験です。日本工営が培ってきた技術力が求められるところです。
これらの課題を乗り越えて3次元を当たり前にしていくことで、災害の予防や災害後の復旧などが高度化・効率化されていきます。ひとつひとつの技術を積み重ねて、「快適な生活」という人類の根源的な目標を達成していきたいです。

―日本工営で取り組んでいる様々なプロジェクトは、明確なニーズがあり、課題を解決していくものです。しかし、この地すべり・斜面対策工設計BIM/CIMにおける自動設計システムの開発は、時代の流れによる要請という側面が強いもの。様々なステークホルダーとチームとして連動していく中で、私たちが培ってきた長所を積極的に発揮すれば、必ずや日本の未来はもっと素晴らしいものになります。これからも日本工営は、社会に貢献できる技術を軸に豊かな社会づくりに寄与し続けていきます。

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