干渉SAR解析による斜面変動監視 斜面技術者の知見に基づく解析手法の開発
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NEEDS
膨大に存在する、災害リスクの大きい斜面監視に向けて
近年、昼夜や天候によらず陸域の観測が可能な合成開口レーダ(SAR)を搭載した地球観測衛星が世界各国から打ち上げられ、活用が盛んに行われています。SARによって取得される観測データには、地表面から反射されるレーダーの反射強度の情報に加えて、反射波の位相情報(注1)が含まれています。
- 注1位相情報:周期的に山・谷を繰り返す電波の波の位置を示す情報。-π~+πで表す。
「二時期差分干渉SAR解析」という手法では、SAR観測を2回行い、それぞれの画像の各画素(ピクセル)の位相情報の差を取ることにより、二時期間の微小な地表変動量を計測することができます。現在、広域的な測量に活用されている航空レーザー測量による変化抽出では、30cm程度の誤差が生じますが、「二時期差分干渉SAR解析」では数mm~数cm程度の精度で地表面変動を計測することができます。
干渉SAR解析技術は、現地に赴くことなく、微小な地表面変動量を計測することができるため、中山間地域に膨大に存在している災害リスクの大きい斜面を継続的かつ省力的に観測・監視することができます。
SOLUTION
解析精度の向上手法
衛星等により取得されたSAR観測データには、地表面変動に起因する位相情報に加えて、衛星と地表面の経路上に存在する電離層や水蒸気の不均一性に伴う位相情報(≒ノイズ)も含まれます。二時期差分干渉SAR解析は2回のSAR観測データのみで斜面変動量を解析できるというメリットがある一方、地表面変動以外の要因による位相情報がノイズとして現れるデメリットがあります。これらのノイズは気象データを用いた補正や各種フィルタリングにより低減することはできますが、原理上ゼロにすることはできません。
上記のデメリットを解決するための手法として、干渉SAR時系列解析と呼ばれる解析手法があります。この解析手法は、多数(最低限15時期以上)のSAR観測データを統計的に処理することにより電離層や水蒸気といった時空間的にランダムに発生するノイズを低減させ、二時期差分干渉SAR解析と比較して、より高精度に地表面変動を計測することが可能となります。また、多数のSAR観測データを用いるため、各解析点の変動量を経時的に把握することができます。
POINT
斜面に特化した解析アルゴリズムの構築
干渉SAR時系列解析はSAR観測データの中から、経時的に干渉性(注2)が高い箇所を抽出・解析する手法です。一般的に人工構造物は電波の反射特性が大きく変化しないため、干渉性の低下が起こりにくいですが、自然斜面や法面は植生変化等の影響により干渉性の低下が起こりやすい特性があります。このような特性から、干渉SAR時系列解析の従来の手法では、斜面を対象とした解析は難しいとされていました。
日本工営は、自然斜面や法面等の土構造物のような干渉性が低い箇所においても解析を行うことができる独自のアルゴリズムを用いることにより、地すべり等の斜面変動現象の計測に成功しています。
解析結果は当社がスカパーJSAT・ゼンリンと共同リリースした衛星防災情報サービス(注3)の1コンテンツとして提供しており、特殊なソフトを用いずに、WEBブラウザ上から簡単に閲覧することができます。本システムは解析結果を地図や土砂災害警戒区域等と重ね合わせて閲覧できるほか、任意の解析点の時系列的な変動グラフを閲覧・出力することができるため、監視対象が広域にわたる場合でも、一元的な管理が可能となっています。
- 注2干渉性:位相の揃い具合を表す指標であり、二時期間で電波の反射特性の変化が大きいと干渉性は低下する。
- 注3当社がスカパーJSAT・ゼンリンと共同リリースした衛星防災情報サービス:
https://pdf.irpocket.com/C1954/cXa5/YUll/HldZ.pdf